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那覇地方裁判所 昭和54年(ワ)339号 判決

原告

東江芳子

被告

川上英信

主文

被告は、原告に対し、金二、八〇四、〇三六円とこれに対する昭和五二年八月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、金一〇、〇九三、五五九円及び昭和五二年八月二四日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、普通乗用自動車(沖五さ八八―五四号以下「被告車」という。)を所有し、自己のために運行の用に供するものである。

2  被告は、昭和四九年二月七日午後七時四〇分ころ、被告車を運転して国道三三一号を佐敷方面から与那原方面へ進行中、沖縄県島尻郡与那原町字板良敷五一六番地仲里商店前路上(以下「本件事故現場」という。)において、同路上を被告車の進行方向の左側より右側へ横断中の原告に被告車の左側前部を衝突させた(以下「本件事故」という。)。

3  原告は、本件事故により、頭蓋底骨折、頭部外傷性硬膜下血腫、鼻骨陥没骨折、外傷性歯牙欠損症等の傷害を負い、次のとおり総計一〇、〇九三、五五九円の損害を被つた。

(一) 治療費 五六〇、六七三円

(1) 県立中部病院関係 三二八、三七三円

開頭手術のため、昭和四九年二月七日から同年三月三〇日まで及び同年五月二四日から同年六月八日までの間各入院し、更に、同月九日から同年九月一八日までの間に延べ一二日間通院し、三二八、三七三円を出費した。

(2) 宮城歯科医院関係 一四〇、〇〇〇円

外傷性歯牙欠損症による義歯の補てつのため、昭和四九年八月七日から同年九月一八日までの間に延べ四日間通院し、一四〇、〇〇〇円を出費した。

(3) 当山整形外科医院関係 九二、三〇〇円

鼻骨陥没による鼻腔閉塞治療の整形手術のため、昭和四九年一〇月一八日から同月二四日までの間入院し、九二、三〇〇円を出費した。

(二) 付添い看護費 二三四、八〇八円

(1) 付添い看護人大城澄子関係 一五九、〇〇〇円

一日当たり三、〇〇〇円で五三日分計一五九、〇〇〇円となる。

(2) 原告の夫東江輝夫関係 七五、八〇八円

原告の夫である東江輝夫は、原告の七六日にわたる入院期間中付添い看護人大城澄子が付き添わなかつた二三日間、自己の勤務先を休んで原告に付き添い、右の間、右勤務先より給与の支払いを受けなかつたが、これを付添い看護費に相当するものとすると、一日当たり三、二九六円で二三日分計七五、八〇八円となる。

(三) 栄養費 一一四、〇〇〇円

一日当たり一、五〇〇円で入院期間である七六日分計一一四、〇〇〇円となる。

(四) タクシー代 五〇、〇〇〇円

入通院のため、県立中部病院につき一六回、宮城歯科医院につき四回及び当山整形外科医院につき一回延べ二一回(以上一往復を一回と計上した。)利用し、計五〇、〇〇〇円を出費した。

(五) 逸失利益 六、九一三、〇一〇円

原告は、本件事故の後遺障害として、まず、頭部に受けた傷害により、慢性的にときどき起こる頭痛及び右半身のしびれ感に悩み、ほとんど労働のできない状態であり、医師によれば、原告の右症状は、今後治療を行なつても完治を期待できず、次いで、鼻骨陥没骨折により、左側鼻腔閉塞の状態にあるため、鼻の機能に著しい障害を有し、更には、歯三本を欠損した。原告は、本件事故前は、いろいろの職業に従事し、相当の収入を得ていたが、本件事故当時、三五歳の女子であつたから、一応、昭和四八年における賃金センサスの年齢別平均給与額を基準とすれば、給与の月額は、九一、九〇〇円となり、原告の右後遺障害による労働能力の喪失率は、少なくとも、三分の一とするのが相当であるところ、原告の本件事故後の残存就業可能期間における逸失利益を新ホフマン式計算法によりその間の中間利息を控除して計算する(三五歳の新ホフマン係数は、一八・八〇六。)と、少なくとも、六、九一三、〇一〇円となる。

(六) 慰謝料 二、〇〇〇、〇〇〇円

原告は、本件事故により、右(五)のような後遺障害を有し、人相も本件事故前とは著しく異なるに至つたので、原告が本件事故により被つた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は、二、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(七) 弁護士費用 六九一、〇六八円

原告は、原告訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起を委任した際、沖縄弁護士会報酬基準規定に基づき、右(一)ないし(六)の損害額合計の七パーセントに相当する六九一、〇六八円を手数料として支払つた。

よつて、原告は、自動車損害賠償保障法三条により、被告に対し、右損害金から既に自動車損害賠償責任保険から給付を受けた四七〇、〇〇〇円を控除した残額である一〇、〇九三、五五九円及びこれに対する本件事故の後の日である昭和五二年八月二四日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の各事実は認める。

2  請求原因3の事実は、原告の後遺障害中、頭部に受けた傷害による頭痛及び右半身のしびれ感については、他覚的に障害の証明されない程度のものであり、鼻の機能障害については、自覚症状として中程度の左側鼻腔閉塞があるのみであるから、これに反する原告の主張は否認し、その余の事実は不知。

三  抗弁

1  本件事故当時、大雨が降つていたため、被告は、本件事故現場付近を制限速度毎時五〇キロメートルを大幅に下回る時速三〇キロメートルで進行したものであつて、雨天時における安全速度を守つていた。原告は、被告車に対向して進行して来た訴外上原勝哉運転の自動車(以下「上原車」という。)の背後から道路上に飛び出したものであり、被告には、原告のような歩行者のいるであろうことを予見できなかつたし、そのような歩行者のいるであろうことを予見すべき義務もない。仮に、右のような予見義務があつたとしても、原告は、時速三〇キロメートルで進行して来た被告車の直前四・五メートルの地点に飛び出したものであつたから、本件事故を回避する可能性は、まつたくなかつた。

原告が被告車に衝突されたのは、大雨の降つているときに、横断歩道でもなくかつ車両運転者にとつて極めて視界の悪い場所を、かさをさしたまま、左右の安全確認することもなく、上原車の背後から被告車直前の道路上に飛び出したためであるから、専ら原告の過失による。

本件事故当時、被告車には、構造上の欠陥又は機能の障害がなかつた。

よつて、被告は、自動車損害賠償法三条ただし書きにより免責されるべきである。

2  仮に、本件事故につき被告に過失があつたとしても、右1のとおり原告にも過失があつたから、過失相殺されるべきである。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は、本件事故の原因が専ら被告の前方不注視及び雨天時における安全速度違反の過失によるものであつたから否認する。ただし、本件事故当時、被告車に構造上の欠陥又は機能の障害のなかつた事実は不知。

2  抗弁2は否認する。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  当事者間に争いのない請求原因2の事実と成立に争いのない甲第五及び第六号証、証人上原勝哉及び同大城正雄の各証言、被告及び原告(第一回)の各本人尋問の結果を総合すると、次の諸事実が認められ、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1  本件事故現場は、沖繩県島尻郡与那原町字板良敷五一六番地仲里商店前の国道三三一号上であるが、右現場付近の国道三三一号は、歩車道の区別のない幅員が約一〇メートル、うち、車両通行用の有効幅員が六・六メートルのアスフアルト舗装道路で、約四〇〇メートルにわたつて直線かつ平たんで見通しがよく、道路両側には、住宅が立ち並び歩行者の通行が多いが、車両の通行もひん繁で、本件事故当時、最高速度が毎時五〇キロメートルに制限されていた。本件事故現場付近には、横断歩道はなく、また、夜間用の道路照明設備は設置されていなかつた。

2  被告車(普通乗用自動車)は、昭和四九年二月七日午後七時四〇分ころ、時速約四〇キロメートルで国道三三一号を佐敷方面から与那原方面へ向けて進行し、本件事故現場付近に差し掛かつたとき、上原車(軽自動車)が国道三三一号を時速約三〇キロメートルで被告車に対向して与那原方面から佐敷方面に向けて進行し、本件事故現場付近に差し掛かつていた。

3  本件事故当時は、かなり強い雨が降り、風も吹いていたが、原告は、本件道路西側にある字板良敷一、三九六番地新里ゴゼイ方前から路向いの右仲里商店に行こうと考え、上原車が約一六メートル左手の地点まで進行して来たときに、右手の方の被告車は上原車よりも遠方にあるからこのまま走つて道路を横断すれば大丈夫であろうと判断し、かさを斜め前にさして右新里ゴゼイ方前から右仲里商店前に向つて小走りに横断を開始し、横断を開始してからは、再度左右の安全を確認したり、道路の中央でいつたん立ち止まり進行して来る被告車をやり過ごすというようなことはせず、一気に横断してしまおうと考えた。

4  訴外上原は、それまで道路わきに立つていた原告が自車の右斜め前方約一六メートルの地点からいきなり道路の横断を開始したため、急制動措置をとつたところ、停車間際の自車の約二メートル先を擦り抜けるようにして通過した原告との衝突を回避することができた。

5  被告は、本件事故当時雨が降つていて路面がぬれていたため被告車の前照灯の光が路面に吸収されたようになつて視界が悪かつたことに加え、対向して来た上原車の前照灯の光にげん惑されまいと進行方向の右方を見て左方には十分注意を払つていなかつたため、原告が右新里ゴゼイ方前の道路わきに立つていたことも、更には、上原車のかなり直前で道路の横断を開始したことにも気付かず、そのまま時速約四〇キロメートルで進行し、横断中の原告まで約一九メートルに迫つたときに初めて、ベニヤ板か段ボールをつぶしたようなものが飛んで来たような気がして、はつとして制動措置をとつたが、上原車の直前約二メートルの所を擦り抜けて来た原告に車体の左側前部を衝突させ、もつて、本件事故が発生した。しかるに、被告は、衝突して初めて、人間に衝突したことに気付いた。

三  一般に、自動車を運転する者には、運転中は絶えず前方を注視して危険を事前に回避すべき基本的な注意義務(前方注視義務)があり、しかも、運転中に、天候、対向車の前照灯の光によるげん惑等の事情からそのままでは前方注視義務を十分尽くすことができなくなつた場合は、直ちに、前方注視義務を尽くすことを回復できる限度まで減速するなど、右事情に応じて必要な措置をとり、もつて、安全な速度と方法で運転すべき注意義務が要求されるが、二で認定の諸事実によれば、被告は、車両通行用の有効幅員が六・六メートルしかなく、夜間用の道路照明設備が設置されておらず、付近に歩道がなく、歩車道の区別のない住宅街の道路を、いまだ歩行者の通行や道路の横断の十分予想される午後七時四〇分ころ、雨が降つて見通しの悪い状況の下に通行していたものであるから、前方注視義務を尽くすことが一層強く要求されるものであり、この前方注視義務には、被告車の進行していた道路部分とは反対側である左側部分を通行する歩行者の動静にも及ぶものであるところ、被告は、本件事故直前に被告車に対向して進行して来た上原車の前照灯の光及び雨のため進路の左前方の安全を十分に確認できなくなつたにもかかわらず、何ら減速等安全運転に必要な措置をとらず、漫然とそのまま同じ速度で進行し、かえつて、上原車の前照灯の光にげん惑されまいと進路の右方を見て左前方には十分注意を払わなかつたため、進行方向左側の道路わきから道路の横断を開始した原告に気付かなかつたものであり、たとえ、原告が上原車及び被告車がかなり接近しているのに道路の横断を開始したという事情があつたとしても、自車を時速約三〇キロメートルで進行させていた訴外上原が道路の横断を開始した原告に直ちに気付いて急制動措置をとり、速度を減じた結果、原告が停車間際の上原車の直前約二メートルの所を擦り抜けられたことを考えれば、仮にそれまで自車を時速約四〇キロメートルで進行させて来た被告において上原車の前照灯の光によつて十分に進路の左前方の安全を確認できなくなつた時点で、直ちに再び左前方の安全を確認できる限度まで減速するなどして、もつて、前方注視義務を尽くし、原告の道路横断開始のときに、直ちに、これに気付いておれば、被告は、的確迅速な急制動措置をとることができ、自車を原告の直前で停止させるなり、原告を減速して停車間際の自車の直前を擦り抜けさせるなどして、自車と原告との衝突という事態を避ける可能性があつたというべきである。したがつて、情況に応じた速度に減速した上、前方注視義務を尽くしていなかつた被告に本件事故発生につき過失がなかつたということはできず、被告は、本件事故につき免責されない。

しかし、他方、二で認定の諸事実よりすれば、原告は、夜間の降雨時でしかも夜間用の道路照明設備の設置されていない道路という車両運転者にとつて視界の点で悪い条件下で、車両の運行の多い道路を横断しようとしていたものであるから、そのような場合は、左右の安全を十分に確認した上で横断を開始すべきであつたのに、左右両方向から上原車及び被告車が接近しているのを知りながら、しかも、かさをさしていたから敏しような行動が制約されざるを得ないのに、安全に横断できるものと速断して、あえて横断を開始し、よつて、訴外上原に急制動措置をとらせ、停車間際の上原車の直前を擦り抜け、これと衝突せずにすんだものの、被告車とは衝突するに至つたものであつて、そのような原告の道路の横断方法は極めて不適切であり、本件事故の発生につき原告にも重大な過失があつたものというべきである。

右のような被告又は原告のそれぞれの過失態様を前提にすれば、本件事故発生についての過失割合は、被告五割に対して原告も五割とするのが相当である。

四  本件事故により原告の被つた損害は、次のとおりである。

1  原告の受傷

原告が本件事故により頭蓋底骨折、頭部外傷性硬膜下血腫、鼻骨陥没骨折、外傷性歯牙欠損症等の傷害を負つた事実は、成立に争いのない甲第一号証の一、第二号証の一及び第三号証の一、原告本人尋問の結果(第二回)により認められる。

2  治療費

請求原因3(一)(1)の事実は成立に争いのない甲第一号証の一ないし四及び弁論の全趣旨により、同3(一)(2)の事実は成立に争いのない甲第二号証の一、二及び弁論の全趣旨により、同3(一)(3)の事実は成立に争いのない甲第三号証の一、二及び弁論の全趣旨により認められ、右認定の結果原告が出費したとされる治療費の合計五六〇、六七三円が損害である。

3  付添い看護費

右2で認定の諸事実よりすれば、原告が本件事故のため入院した総日数は七五日であるが、成立に争いのない甲第四号証、原告本人尋問の結果(第二回 ただし、後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、原告の夫は、本件事故当時、トラツク運転手として一日当たり少なくとも三、二九六円の収入があつたところ、原告の七五日にわたる入院期間中最初の二二日間、仕事を休んで原告に付き添い、残り五三日間は、病院で働いていた原告の妹が原告に付き添つた事実が認められ、原告本人尋問の結果(第二回)中右認定に反する部分は措信できないし、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。そして、右認定の付添いの状況は、原告が本件事故により被つた右1で認定の傷害に照らし相当であり、原告の夫が付き添つた分につき、同人の給与額に相当する一日当たり三、二九六円で計算して二二日分、原告の妹が付き添つた分につき、職業的付添人の費用に相当するものとしてよい一日当たり三、〇〇〇円で計算して五三日分合計二三一、五一二円をもつて損害とするを相当とする。

4  栄養費

本件全証拠によつても、原告が入院期間中に栄養費の名目の下に出費をした事実は認められない。

5  タクシー代

右2で認定した諸事実に照らすと、原告が入通院のためタクシーを、県立中部病院につき一三・五回(原告が一回目に入院した際は、救急車により収容されたことは、弁論の全趣旨により認められる。)、宮城歯科医院につき四回及び当山整形外科医院につき一回延べ一八・五回(以上一往復を一回と計上した。)利用したことが認められるが、右のタクシー利用の状況は相当であり、そのための費用として合計四五、〇〇〇円をもつて損害額とするを相当とする。

6  逸失利益

(一)  原告本人尋問の結果(第二回)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故直前、三五歳の主婦として家事に携わるかたわら、近所の子供を一人一か月一万円で二人程度預かるというようなこともしていた事実が認められ、右のような労働に従事していた原告は、少なくとも原告主張の昭和四八年の賃金センサスにおける三五歳の女子の平均給与額である一か月当たり九一、九〇〇円の収益をあげていたとみるのが相当である。

(二)  成立に争いのない甲第七ないし第九号証、原告本人尋問の結果(第二回 ただし、後記措信しない部分を除く。)及び弁論の全趣旨を総合すると、原告は、本件事故によつて頭部に受けた傷害により、脳波検査では特に異常は認められないものの、本件事故から五年以上経過した時点でも、慢性的にときどき起こる頭痛及び右半身のしびれ感に悩み、右半身は感覚が鈍まし、握力又は脚力等も減退するという状態にあり、これらの症状は、今後とも除去される見込みがなく、次いで、本件事故による鼻骨陥没骨折のため、原告は、プラスチツクそう入の整形手術により鼻筋を回復することはできたものの、左側鼻腔が中程度に閉そくし、鼻がつまり気味という状態にあり、更には、原告は、本件事故により歯三本を欠損し、これらを補てつした事実が認められ、原告本人尋問の結果(第二回)中右認定に反する部分は措信できないし、他に、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(三)  右(二)で認定した原告の本件事故による後遺障害の程度自体に加え、原告本人尋問の結果(第二回)によると、原告は、もはや、本件事故前に行なつていた近所の子供を預かるというようなことができなくなつたというのであるから、原告は、本件事故により、労働能力を一五パーセント喪失したものとするのが相当であるところ、右(一)で認定のとおり、原告の本件事故当時における収益は一か月九一、九〇〇円であつたから、原告の本件事故から六七歳までの就業可能期間における逸失利益を新ホフマン式計算法によりその間の中間利息を控除して計算する(三五歳の新ホフマン係数は、一八・八〇六。)と、三、一一〇、八八八円(一円未満切捨て)となる。

7  慰謝料

原告は、右1及び2で認定のとおり、本件事故により頭蓋底骨折、頭部外傷性硬膜下血腫、鼻骨陥没骨折、外傷性歯牙欠損症等の傷害を負つて、延べ七五日間入院、更に、延べ一六日間通院して治療に努め、原告本人尋問の結果(第二回)によると、原告は、右治療の一環として、頭部に受けた傷害のため、頭部をプラスチツク片に交換し、更に、頭骨にもどすというように、開頭手術を三度も受け、また、鼻骨陥没骨折のためプラスチツクをそう入してようやく鼻筋を回復できたというものであり、これに加え、原告は、右6(二)で認定のような後遺障害を有し、右後遺障害は、将来とも除去される見込みのないものであることを考えると、原告が本件事故により被つた肉体的、精神的苦痛に対する慰謝料は、二、〇〇〇、〇〇〇円をもつて相当とする。

8  弁護士費用

右2ないし7の損害額の合計は五、九四八、〇七三円であるところ、三で認定のとおり原告の本件事故に対する過失割合は五割であるから過失相殺し、右損害額のうち二、九七四、〇三六円(一円未満切捨て)を被告に賠償させるべきところ、本件の事案としての難易の程度、右の被告に賠償させるべき損害額その他諸般の事情を考慮し、弁論の全趣旨により原告が原告訴訟代理人に対し本件訴状の被告に送達された昭和五二年八月二三日以前に手数料として支払つたものと認められる六九一、〇六六円のうち、本件事故と相当因果関係を有する弁護士費用として三〇〇、〇〇〇円を被告に賠償させることを相当とする。

9  したがつて、被告が原告に対し賠償すべき損害額の合計は、既に自動車損害賠償責任保険から給付を受けたと原告の自認する四七〇、〇〇〇円を控除すると、二、八〇四、〇三六円である。

六  以上の次第であるから、原告の本訴請求は、本件事故による損害金のうち二、八〇四、〇三六円とこれに対する本件事故の後の日(ただし、弁護士費用である内金三〇〇、〇〇〇円については、支払いをした後の日)である昭和五二年八月二四日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮城藤義 長嶺信栄 向井千杉)

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